早起き通信 2026 秋号 vol.6

 秋になると近所の公園で区民祭りが開催される。公園には地域の飲食店などのテントが並び、想像以上の賑わいを見せる。
 もう何年も前のことになるが、妻の実家のお店が出店する際に、僕も一度だけ、おにぎりや焼きそばの販売を手伝ったことがある。
 昼時になると、おなかを空かせた人たちで行列ができた。行列といってもきちんと並ぶわけではなく、みんなバラバラに品物を選んでいる。僕は目が合った人から順に注文を聞いて売っていた。「袋はいりますか?」とか、いちいち聞きながら。
 すごい数のお客さんが押し寄せてくるから、あまり長く待たせないように、僕なりには急いでいた。ただ、昔から、僕は急いでいても急いでいるように見えないらしい。
 一緒に販売を手伝っていた近所のおばちゃんは少しイラついた感じで僕に指示をとばしてくる。
「袋は、もう聞かなくていいから、入れて渡してあげて!」
「おつりはここに置いておけば、すぐ取れるでしょ!」
 この感じ、知ってるなと思う。
 がんばって動き回っている人には、僕は手を抜いているように見えるらしい。昔からいつもそうだった。でも、僕だってがんばってないわけじゃなくて、誰かのペースでやらされるのが苦痛なだけで、一人なら何だってうまくやってみせる自信がある。それに、やけに張り切っている人がいると、わざとクールに振る舞ってしまうところもあるから、怒らせてしまったりもする。僕のやり方が気に食わないのなら、僕は降りるよと言ってしまいたくなる。なんというか、みんなで汗をかいて、がんばったあとにビールで乾杯とか、そういうのを想像しただけで、僕はちょっとしらけてしまう。向いてないのだ。

 高校時代の文化祭とか体育祭もそうだった。
 文化祭ではクラスで何か出し物をしたはずだが、何をやったのかすら知らない。最初からまったく顔を出さなかった。体育祭でもやぐらを組んだり、ほかにもみんなで準備することがいろいろあったはずだ。何かの作業とか、出場する種目とか、それなりに割り当てられていたと思うが、僕はほとんど参加しなかった。体育祭当日も教室でタバコを吸っていた。

 ただ、本当のところ、僕は自分でもよくわかっていないところがある。というか、どちらかというと、楽しいことは好きな方だ。気の合う仲間と一緒に何かをやるのも好きだ。それなのに、「さあ、みんなで楽しみましょう!」と声があがると、急にそこから離れたくなる。
 たとえば、仕事仲間との飲み会の帰り、みんなは駅に向かうが、僕一人だけ違う方向に歩き出すときの解放感がたまらなく好きだったりする。それでいて、その飲み会が楽しかったりすると、一人電車の中でスマホを手にして、さっきのメンバーの誰かに何かLINEしようかと迷ったりしている。実際は何もしないけど……。

 だから、というか、それなのにと言えばいいのか、この秋、いくつかのブックイベントに参加する。新しいZINEも作った。しかも、何人もの書き手に協力してもらいつつ、なんとか完成にこぎつけた。企画・編集・執筆・デザイン・出版という一連の作業は、もう、心の底から楽しませてもらった。
 問題はこのあとの販売なわけで、とくに、ブックイベントはある種の“お祭り”で、それに参加するとなると、文化祭や区民祭りで味わった“しらけ”が発動するのは目に見えている。
 イベント会場で僕はやる気のなさそうな顔で突っ立っていると思う。どうか、そのまま僕のことはそっとしておいてほしいけど、うっかり僕と目が合った人は静かにZINEを買っていってほしい。変なニヤケ顔でなら、僕もお礼くらいは言える。しらけつつも、なんとかごまかすしかない。

2026年10月1日